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【書評】司馬遼太郎『播磨灘物語 一』



去年の大河ドラマ「軍師官兵衛」を観たこともあり、最近刀剣乱舞にハマっていることもあってクロカン熱がこみ上げてきたので古書店で購入した一冊。官兵衛の家柄から話が始まり、荒木村重に出会うまでを描く。
この物語では官兵衛がキリシタンになった時期は大河ドラマより早いが、小和田哲男『黒田官兵衛 智謀の戦国軍師』によれば官兵衛のキリスト教入信は天正11年(1583年)ごろで、高山右近の勧めによるものだというが、小和田氏は“もしかしたら少年時代、堺に遊びに行ったりして、堺にいた宣教師からキリスト教の影響を受けるというようなこともあったかもしれない”と書いている。
 司馬遼太郎のキリシタンとしての官兵衛像は後者に則ったもので、さらに云えばかなり打算的な心境で南蛮寺に通っている。

“官兵衛のような田舎の微少な勢力の中にいる者にとってキリシタンの組織ほどありがたいものはない。この南蛮寺にさえゆけば、日本中の情勢がわかるのである。
すくなくとも京都情勢があきらかになるのである。そのわけは、たとえば目下敵味方にわかれて対峙中といった関係の連中さえ、会堂に入っているときはともに敬虔な態度で礼拝し、説教を聞き、懺悔をし、終わればたがいに談笑するという光景さえ無数に見られるのである。
官兵衛はそういうなかに入り混じっていれば、なにがしかの様子もわかる。それに、日本人の修士(いるまん)が、官兵衛が質問すると、的確に事情を教えてくれた。この新しい宗教力にとって、一向宗や法華宗のように武力をもっていないだけに、退くも進も、政治上の情報だけが頼りであった。このため、かれらは信徒の武士たちから情報をできるだけあつめ、整理し、どう行動をとるべきかという判断のもとにしていた。”


ここには当時の日本におけるキリスト教の布教がいかに困難なものであったかを示していることが窺える。司馬遼太郎は研究者ではないので、その文章を鵜呑みにするのは危険ではあるが、司馬遼太郎といえば彼が本を書けばその関連する本が神保町から消えたとも云うし、トラック1台分の資料を集めてアシスタントに整理させ、自らすべてに目を通したという。その根気強い調査力には舌を巻くばかりである。
 さて彼の描く官兵衛像についてだが、印象的なシーンがあるので引用したい。

“子供がトンボ追う。どこまでも追ってゆくのだが、あれは何か、と官兵衛は考える。売っていくらという利益になるわけでもなく、またトンボが食えるわけでもない。トンボがもし食えるのなら、子供は追わないにちがいない。
 官兵衛も子供のころ、夢中になってトンボを追った。青い宙空を翔けているトンボを見て天の切れっぱしのように思え、あるいは天の使い者か、もしくは天に住む眷属の一派のように思えた。だからこそ追っていたように萌える。人間は所詮は地上に縛られねばならぬ生きものだが、それに空想を与えてくれるものは天であり、幸いなことに播州の野は広く、天が広い。官兵衛は、他の子供もそうであるように、半ば夢想のなかで幼童のころをすごした。空に群れ、あるいはかけてゆくトンボを血相変えて追ったのは、そういう夢想と無縁ではあるまい。
官兵衛は二十を越えてもなお天をあこがれるような夢想をもち、それを育てている。
 ――官兵衛どのは齢若いにも似ず分別人だ。
 という評判も、一面にある父の兵庫助が四十半ばという壮齢ながら官兵衛に家督をゆずって隠居してしまったのは、官兵衛のもつその分別に安堵したからである。夢想と分別はおよそ逆のものだが、その矛盾が、矛盾のまま官兵衛の中に入っている”


何とも魅力的な官兵衛像ではないか。おそらくその天へのあこがれが信長へ彼の心を傾けさせたのであり、また分別人として生き残りをかけた打算が彼を信長に従わせることになったのだろう。
 少年のような心と大人としての計略。そのどちらも持ち合わせた官兵衛像は、確かに史実の官兵衛と重なる部分があるように思われる。
 長くなってしまったのでこの辺で筆を置こうと思うが、今から次巻を読むのが楽しみでならない。竹中半兵衛も登場するであろうし、今後の展開には中国攻めも関わってくることからへし切長谷部が下賜される場面も出てくるだろう。
 書評を書かないと次の本を読まないと決めているので、この記事の執筆に取りかかるのに時間がかかったが、ようやく続きを読めると思うと今から期待に胸を膨らませているところである。
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夕星桔梗

Author:夕星桔梗
元日本古代史ゼミ所属。作家志望のアマチュア物書き。

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