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【書評】大神神社編『古代ヤマトと三輪山の神』

古代ヤマトと三輪山の神古代ヤマトと三輪山の神
(2013/08/24)
大神神社

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本書は大神神社が主催した「三輪山セミナーイン東京」の第十回開催を記念し、過去の東京での講演録を収録したものである。
広く一般向けに書かれているためか文体は平易なもので、内容も研究文献というよりは一般書という色合いが強い。
念のため全論文に目を通したものの、疑問を覚える点や突っ込み所も多く、これが大神神社が主体となって催したセミナーで語られていたとは少し眩暈を覚える。

中でも仰天したのが西宮一民氏の「ヤマト王朝と三輪の大神」の次の箇所だ。

いくら大物主神でも、天皇が祭主(かむぬし)として祭るということはありえないではありませんか。(…)天皇が祭るのは天照大神だけであって、(…)大物主神の祭祀も天皇であってはなりません。

いやはや、天皇が祭るのは天照大神だけとは初めて聞いた。
大物主神をオオタタネコに祭らせたのは、間接的に委託したに過ぎないのであって、直接的に祭るか間接的に祭るかの違いだけである。なお、新編日本古典文学全集版の『日本書紀』の頭注には、「今まで祟っていた大物主神を祭らせたというのは、天皇が祭祀権を獲得し、それにより大神を服従せしめたことを意味する」とある。

他にも、中西進氏「古代史における三輪山信仰」の弥生文化と縄文文化をモデルとした説明には脈絡がなく、根拠も乏しいものに思われた。

もっともっと私たちは縄文時代を視野に入れた歴史を学ばないといけないのです。その一番良い典型が大神神社です。私は、三輪の神の信仰の発祥は縄文時代にあると思います。

しかし考古学的な根拠もなく、他の研究文献による裏付けもなく、「思う」で片付けられては困りものである。三世紀代の纏向遺跡と四世紀後半以降の三輪山祭祀を結びつけうるかどうかも問題が残っているというのに、それ以前の時代に果たして遡及できるか、怪しいというほかない。

そもそもこの本の執筆陣をざっと見て、今まで他文献を読んできた中で信頼できる著者は二人しかいなかった。
岡田莊司氏と和田萃氏である。岡田氏は神道研究の第一人者、和田萃氏は日本古代史研究でも名高い研究者だ。
岡田氏の論文は先日「古代天皇祭祀と災い」を読んだばかりだが、本書に収められた論文はそのダイジェスト版ともいうべきもので、災害と古代祭祀という視点から三輪山信仰に切り込んでいる。

天皇は人々にふりかかる災いにたいし、まず神々に謝っていて、神意はなかなか伝わってこない。(…)祭祀の象徴的場面で、天皇祭祀は貫徹されないという、説明がかなり複雑です。むしろ神々から拒否に出会い、結局委託祭祀が選択され、これが最良の祭祀法とされています。古代いらいの祭祀制の基本は、この伝承に記されています。


和田萃氏は寺澤薫氏「三輪山の祭祀遺跡とそのマツリ」から考古学資料を引用し、石野博信氏の説を援用して、三輪山の祭祀時期を纏向遺跡の時期まで遡ると見ている。これは私の推測とも重なり、また陶邑とオオタタネコにまつわる伝承の由来との結びつきも認めている。これは私にとっても得るべきものが大きかった。ただし、

(…)三輪山の祭祀は、元来、大和王権の大王が祀っていたものが、六世紀段階になると三輪君が祀るようになった。またその神格も自然神、龍蛇神で、黒雲を起こし雨を降らせる神であったものが、大和の国造りの神となっていく。(…)六世紀中葉になると、祀り手と祭神が変化し、三輪君により祟り神として祀られるようになった。

という箇所については疑問を覚える。果たしてそのような神格の変化は起こりえたのか。これに関して鈴木正信氏は『大神氏の研究』(雄山閣、2014年)の中で、大物主神の神格は重層的なものであったとし、古くから不可分であったとしている。
また六世紀中葉以降に大物主神が祟り神として認識されるようになったとする点も鈴木氏は否定している。

そもそも古代においては祟り神という独立した神格が存在したわけではない。神とは常に祟り神としての一側面を有するものであったからだ。岡田莊司氏は「古代天皇祭祀と災い」の中で

三輪山の神を祟り神と規定する意見があるが、それは正しい理解とはいえない。地域の平安、秩序の回復、恵みを付与する神の属性の一部に、祟る機能を持っているということであろう。

と記している。
古代祭祀を考える上では歴史学だけでなく、考古学や宗教学の研究成果も広く反映していく必要があるのだ。

〈参考文献〉
岡田莊司「「古代天皇祭祀と災い」『國學院雑誌』112巻9号、2011年
鈴木正信『大神氏の研究』雄山閣、2014年
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夕星桔梗

Author:夕星桔梗
元日本古代史ゼミ所属。作家志望のアマチュア物書き。

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