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第三十三回 大宮 薪能@氷川神社




【演目】
金春流 素謡 翁
雅楽
火入れ式
解説 
宝生流 能 羽衣
和泉流 狂言 鐘の音
金春流 能 殺生石

友人に誘われて、大宮は氷川神社まで足を伸ばしてきました。薪能を観るのはこれが二回目。ちょうど一年ほど前の五月十五日、東京大薪能で土蜘蛛を観たのでした。その時は会場が広かった上に自由席だったので、遠くから観ることになってしまい、なかなか能本来の魅力を味わうことができなかったのです……。
しかし今回は佳い席で観ることができて僥倖でした。遅れて会場入りしたため、冒頭の「翁」は会場外から中継映像で観ることになってしまいましたが(´・ω・`)
しかし始まりこそ複雑な気分だったものの、「羽衣」が始まるとたちまち能の夢幻世界へと誘われました。「羽衣」は前から見てみたい作品の一つだったこともあり、また羽衣を纏った天人の舞姿のえもいわれぬ美しさに、心を文字通り奪われてしまいました。これが能の神髄だったのかと、観能三回目にして初めて能の魅力が心に沁みた気がします。
台詞も初めて能を観に行った二年前とは違って、するすると頭の中に入って響き、中でも「霓裳羽衣」という単語には思わず反応してしまいました。
霓裳羽衣といえば白居易の長恨歌に出てくるもので、唐の玄宗皇帝が天人世界の舞楽を見聞して作ったとされる曲です。中国の古典音楽としても残っていますが、それが日本へ来るとこのような形となって表れるのだなあとしみじみ感じ入りました。
そして天人の舞。私は能の中でも舞の場面が特に好きなのですが、この「羽衣」の舞は天人の舞だけあって心を強く惹きつけられました。できることならずっとずっと見ていたいと思わせるような美しさにうっとりしてしまったのです。

続いて「鐘の音」。シテを演じたのは野村万作さんで、この演目ではその芸を心ゆくまで楽しめました。仕草の一つひとつ、台詞の調子まで磨き抜かれた芸が光っていて、これが能を極めた人の演じる姿なのだと感じました。と同時に、鐘の擬音には思わず笑いがこぼれ、狂言の面白さを改めて知ることができたように思います。

そして最後に「殺生石」。実は去る五月十日に「朗読能シアター 殺生石」を聴きに行っていたので、今回こうして実際に能として「殺生石」を観られるのを楽しみにしていました。「朗読能シアター 殺生石」の方はまだ感想を書いていませんが、今回本物の能を観て改めて感じることがあったので、併せて書きたいと思います。

能「殺生石」では修行の旅の玄翁和尚が那須野の原へ着き、そこで殺生石という巨石にまつわる話を聞いて、石の精を成仏させるというのが一連の流れですが、「朗読能シアター 殺生石」ではその前日譚として、本来和尚の伴の口から語られる玉藻の前の物語を朗劇に復元し、それに天竺での物語を加えて朗読するという形でした。
実際の能を観てみると、「朗読能シアター」ではよくあの「語り」から「物語」を作り上げたなぁと感心しました。
解釈にも現代的な要素が加わっていて、能では石の精は悪心を捨てて成仏するのですが、「朗読能シアター」では、舞台が天竺でも日本でも、石の精の正体である「九尾の狐に惹かれる男」をオリジナルで設定し、九尾の狐も「光に焦がれる闇」として描かれていました。
そして「朗読能シアター」では玄翁和尚は九尾の狐に向かって「お前は闇にも光にもなれない。ありのままの自分を受け入れなさい」と説き(残念ながら台本を買っていないのでうろ覚えですが……未だに買わなかったことを後悔してます)、九尾の狐は自分を受け入れてくれる迎えの虹に向かって歩んでいくというラストシーンを迎えます。
これはとてもメッセージ性が強くて、惑いの道にいる私などはハッとさせられたものです。ありのままの自分を受け入れる。これが一番難しいことなのかもしれません。
でも、ありのままの自分を受け入れてくれる人がいて、初めて自分自身を受け入れられるのだとも解釈できるように思います。九尾の狐のそばには常に「男」がいたことを考えれば、周りの人の心に目を向けなさいというメッセージでもあるのかなと感じました。

さて本題に戻るとしましょう。能「殺生石」での見所は、やはり石の精が正体を現す場面。これが心に焼き付くほどの迫力で、業を負った獣の深い深い悲しみと怒りを目の当たりにしたような気がしました。
能というのはどれだけその世界に没入できるかで全然感じ方が違うのだと思います。音や台詞、衣装や面から立ち現れてくる世界を感じ取り、その中に自分の心を入り込ませる。それが能の楽しみ方なのではないかと、観能三回目にして初めて分かったような気がします。
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夕星桔梗

Author:夕星桔梗
元日本古代史ゼミ所属。作家志望のアマチュア物書き。

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