FC2ブログ

【書評】高橋源一郎『ぼくらの民主主義なんだぜ』



先日久々に神保町へ行って歴史関連の書籍を探していたのであるが、古代史はともかくとして最近気になっている日本の戦国時代に関しては大河ドラマ程度の知識しかないということもあり、古書店で本を探すのを断念し、入門書を探そうと三省堂へ赴いた。
新書で一冊気になっていた本があったので、普段は立ち入らない新書コーナーを見て回っているうちに、様々な政治関連の本があることに気づき、昨今の政治のことに関してももっと勉強せねばという想いがあったので、二冊ほど購入した。本書はその一冊である。

本書は朝日新聞の「論壇時評」というコラムに掲載された高橋氏の文章を一冊にまとめた本なので、一節一節が短くて有り体に云えばとっつきやすそうに感じた。
なにより、帯に書かれた「絶望しないための48か条」という文言が私を惹きつけた。私はとにかく昨今の政治情勢に失望していたからだ。
さっそく先日読んでみたところ、震災や従軍慰安婦、天皇制、就活のことなど時事問題を扱っていながらも、高橋氏の文学者らしい平易な文章はわかりやすく、また心を掴まれる箇所もあった。私にはまだまだ判断がつきにくい箇所や、いささかエモーショナルに書きすぎだと感じる部分もあったが、全体としては「いい意味で」朝日新聞に載るにふさわしい、このご時世に一石を投じるような仕上がりになっていたと思う。

たとえば私が刺激を受けた箇所は

古市(憲寿)は、日本人の戦争に関する記憶をたどり、ついに「戦争を知らなくていい」という結論にたどり着く。
前の戦争は、日本人にとってもっとも「大きな記憶」でありつづけた。だが、それに代わる「大きな記憶」を作ることは難しい。なぜなら、現在の日本人の大半にとって、もっとも「大きな記憶」とは、実は68年つづいた「平和経験」だからだ。古市はこういうのである。
「僕たちは、戦争を知らない。そこから始めていくしかない。背伸びして国防の意義を語るのでもなく、安直な想像力を働かせて戦死者たちと自分を同一化するのでもなく、戦争を自分に都合よく解釈し直すのでもない。戦争を知らずに、平和な場所で生きてきた。そのことをまず、気負わずに肯定してあげればいい」

という部分である。
被爆地長崎で幼少から平和教育を受けて育ってきた身としては、手放しで賞賛するわけにはいかないが、「そういう考え方もあるのか」とハッとさせられた。
私のように歴史を学んできたものにとって、この言葉はあまりに乱暴な気もするが、「平和そのものにフォーカスする」という考え方は決して悪いことではない。日本では「あの戦争を抜きにして平和を語ることはできない」という固定観念が根強く残っているし、私もその観念に縛られているけれども、一方で被爆者の方々の平均年齢が80歳を超えるなか、記憶を語り継いでいくことは難しい。
それをいかに語り継いでいくかという問題には真摯に向き合うべきだけれども、長崎や広島への原爆投下の日時などの「戦争の記憶」を知らない若者が増えつつある今、この古市氏の提言は評価されるべきものではあると思う。


それから

「反知性主義」のタイトルを掲げた本が次々と出されている。その中の一つで、内田樹は、こう書いている。「バルトによれば、無知とは知識の欠如ではなく、知識に飽和されているせいで未知のものを受け容れることができなくなった状態を言う」
逆にいうなら、「知性」とは、未知のものを受け入れることが可能である状態のことだ。

という部分である。私にはまだまだ知識が足りない。その分吸収するべき余地はたくさんあるし、まだまだ伸びしろはあると考えさせられた。

たとえば現代中国の問題にしても、日本で放送されるニュースで耳にすることだけでは分からないことが山のようにある。ここのところBS1のドキュメンタリーを観ることをすっかり怠っていたが、これを機に再開してみるのもいいかもしれない。
私は現代中国のことを知るたびに「これだから中国は」「所詮こんな国だ」とは思わない。ありのままの現実を知りたい。その思いが強くて、そこに何らかの価値判断を下すことは安易にしたくない。それは日本人という枠から外れて中国という国を知るためでもある。
その「知りたい」という思いこそ日本と中国を結びつけうる原動力になるのではないか。私はそう思っている。
先日テレビを観ていたら、『知日』という雑誌が中国の若者の間で売れているというニュースを知った。やはり海の向こうの彼らも日本に少なからず関心を持っているのだ。
わずかながらでも希望はある。そう信じたい。
スポンサーサイト



コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

夕星桔梗

Author:夕星桔梗
元日本古代史ゼミ所属。作家志望のアマチュア物書き。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
twitter
Booklog
カウンター
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR